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波動エネルギーと思考エネルギー 後編 (前田 守人)

■意識は量子力学で説明できるのか

物質ではなくエネルギーで宇宙を捉えるという考え方は、現在の物理学が教える量子論からも理解できます。「粒子と波動の二重性」として知られ、量子が関係する光や電気といったさまざまな物理現象が、粒子のような性質と波のような性質を併せ持つということがわかっています。
また、人間が観測した時に量子(電子)は粒子として振る舞うという不思議な原理もわかっています。つまり、観測されなければ量子は波であり、観測されれば粒になるということなのです。この原理からすれば、「波動エネルギーを動かすことができるのは、個性の思考エネルギーだということ」も理解可能かもしれません。では、そもそも個性の思考エネルギーを生み出す我々の個別の意識とは何なのでしょうか。意識を理解するために、まず脳について考えてみます。
私たちが現実だと思っている世界は、前述したように実は脳の創作物です。脳が世界について知るための唯一の道は、頭蓋骨に入ってくる感覚器官からの情報で、それは直接的な光や感触や音ではなく、電気信号に変換されて脳に入力されています。実際に知覚するものはすべて脳に送られてきた電気信号をもとに作られており、現実世界は脳内に構築された世界なのです。
解剖学者の養老孟司氏は、ロングセラーになっている『唯脳論』(青土社、一九八九年刊)で意識についてこう述べています。

「脳という器官があって、それになにか機能がある。その機能とはなにか。いくつかあるが、その一つが意識である。(中略)
生き物が外界の条件に反応だけしていればいいうちは、すなわち下等動物の脳なら、意識はなくてもいい。脳には剰余がなく、自分の中で何が起こっているか、『知る』だけの容量がない。しかし、ヒトの脳ほど大きくなれば、中味のことがある程度わかって不思議はない。つまり、ヒトの脳は、外界だけではなく、自分の脳に気がついてしまった」(『唯脳論』一一八頁)

ヒトの脳が増大してしまったために、下等動物とは違ってヒトは外界を知り、また自分の身体についても知ってしまったということでしょう。さらに、こう続けます。

「脳が脳のことに気がついてしまったのは、いわば気がついたらそうなっていたのである。考えようによってはこれはまたしても当り前で、脳は身体のことを知るために、身体中に末梢神経を張りめぐらしている。したがって、脳のことを知るために脳から末梢神経が脳に行くとしたら、脳の細胞と脳の細胞が、末梢神経を介して連絡することになる。ところが、末梢神経とは、神経細胞の突起であるから、なにも末梢神経を介さずとも、すでに脳内の細胞どうしはおたがいに連結している。だから、わざわざ脳に神経を送る必要がなかったとも言える。回路として考えれば、剰余が生じたときにすでに、意識の『もと』は用意されていたのである」(『唯脳論』一二〇頁)

神経は身体に網の目のように張りめぐらされており、無数の細胞や組織と連絡を取り合っているネットワークのことです。脳と脊髄からなる中枢神経は、全身の末梢神経のネットワークに指令を出しています。脳内の神経細胞(ニューロン)は細かく張りめぐらされていて、人間一人のニューロンやシナプス(ニューロンをつなげる出力部分)をつなげると一〇〇万キロになるとも言われています。こうした神経のネットワークは、脳が身体を知るために張りめぐらされていて、一方で意識は脳をコントロールする立場にあるということになります。
意識はこれまで哲学や心理学の対象であり、物理学の分野ではあまり扱われてきませんでした。しかし、二〇二〇年にノーベル物理学賞を受賞したイギリスの数理物理学者ロジャー・ペンローズ氏は「量子脳理論」を唱え、心は量子で語れるかとの問題提起をして論争を巻き起こしました。

「意識というのは、何か別の存在です。それは部分の寄せ集めではなく、一種の大局的な能力で、おかれている全体の状況を瞬時にして考慮することができる。だから、私は意識が量子力学と関係すると考えるのです。
量子力学でも、意識に似たような状態があるのです。大局的で、それ自体で存在していて、こまかい部分の結果ではないような状態が」(『ペンローズの〈量子脳〉理論』七六頁)

意識が何か別の存在という解釈には興味が湧きます。そして、続けてこうも書かれています。

「私自身のアイデアの中心になるのは、『計算不可能性』(non‐computability)です。現在知られている物理法則は、すべて計算可能なタイプです。つまり、私たちは、現在の物理学の描像の外側に行かなければならないのです。(中略)
私たちの心が物理的世界からいかに生じるかというのが唯一のミステリーではないということです。実は、ミステリーは三つあります。つまり、物質的世界、心の世界、そしてプラトン的世界の三つの世界の間の関係が謎なのです。(中略)プラトン的世界から、物質的な世界が生じると考えられるのです。
ここで、『生じる』というのは、適切な言い方ではないかもしれません。しかし、物質的な世界の構造が、数学に根差していることは確かなのです。一方、私たちの心の世界は、物質的な世界に根差しているように見えます。さらに、私たちの心は、プラトン的な世界の真実を認識する能力を持っているように見えます。この三つの世界の関係は、とても深遠なミステリーなのです」(『ペンローズの〈量子脳〉理論』八三頁)

ここでいう「プラトン的世界」とは、いわゆる霊界のことを意味していると思われます。プラトンは、輪廻転生する不滅の霊魂の概念を重視していた哲学者で、また感覚を超えた真実の世界として「イデア論」を展開しています。Wikipediaの説明によると、
「我々の魂は、かつて天上の世界にいてイデアだけを見て暮らしていたのだが、その汚れのために地上の世界に追放され、肉体(ソーマ)という牢獄(セーマ)に押し込められてしまった。そして、この地上へ降りる途中で、忘却(レテ)の河を渡ったため、以前は見ていたイデアを忘れてしまった。だが、この世界でイデアの模像である個物を見ると、その忘れてしまっていたイデアをおぼろげながらに思い出す。このように我々が眼を外界ではなく魂の内面へと向けなおし、かつて見ていたイデアを想起するとき、我々はものごとをその原型に即して、真に認識することになる」
とされ、天才物理学者が、心と量子力学の関係について問題提起していることに興味が尽きません。