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【疑う力・創る力】(岡田 豊)「みんな、口をつぐみ始めた」言論の自由の危機に瀕する米国

「みんな、口をつぐみ始めました。迫害が起きています」。アメリカのハーバード大学近くのボストンエリアに住む知人がこう言います。SNSの投稿がAIでチェックされ、声を挙げる人が捕まり始めているそうです。「政治のことを口にしたら危ないから、もう話しません」と言っている人もいるそうです。この危うい現象が、どれほど広がっているのしょうか。これが今のアメリカの姿なのかと耳を疑ってしまいます。まったく違う国になってしまったのでしょうか。

 トランプ政権は、大学に対して、DEI(多様性、公平性、包摂性)の推進をやめるよう要求しています。これを拒んだハーバード大学に対し、補助金の一部を停止しました。さらに、トランプ政権は5月22日、ハーバード大学が「暴力や反ユダヤ主義を助長し、中国共産党と連携している」と主張して、留学生の受け入れ資格を取り消すと発表します。翌日、大学がこれを「憲法違反だ」として、トランプ政権を提訴。連邦地裁は即日、政権による資格取り消し措置の一時的な差し止めを命じました。すると、トランプ政権の高官は「憲法で大統領に与えられた権力を弱体化させようとしている」と地裁を批判。ホワイトハウスの副報道官も「選挙で選ばれていない裁判官に、トランプ政権の移民政策や国家安全保障政策の正当な行使を妨げる権利はない」と非難しました。司法にも刃を突き付けます。

 ニューヨークのコロンビア大学では、反イスラエルデモに関わった学生らが相次いで逮捕されました。ガザ地区を際限なく攻撃し、パレスチナの人たちの命を奪い続けるイスラエルに抗議するデモが抑え込まれています。本来、暴力に訴えないデモは言論の自由を求める発露であり、民主主義を守ろうとするアメリカの健全な文化でした。トランプ政権がこれを封じ込めている形です。トランプ政権の真の狙いは何なのか不明ですが、言論の自由を奪うようなアメリカは、もはや民主主義の盟主ではありません。

 言論の自由の擁護などを目的に活動する国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(本部パリ)は5月、180国・地域を対象に今年の報道自由度ランキングを発表しました。日本は昨年の70位から66位に順位を上げましたが、G7では最下位のままです。アメリカは順位を2つ落とし、57位となりました。「トランプ大統領が報道の自由の状況を大きく悪化させている」と分析。「メディアに対する政治家の蔑視は一般市民にも及び、ジャーナリストは取材現場で嫌がらせや脅迫、暴行に直面することがある」と指摘しています。

 今年1月、漫画家アン・テルナエス氏が米紙ワシントン・ポストを辞職しました。テルナエス氏は優れた報道に与えられるピュリツァー賞を受賞したことがあります。ワシントン・ポストのオーナー、ジェフ・ベゾス氏がトランプ氏にひざまずく様子を描いたテルナエス氏の風刺画が同紙から掲載を拒否され、抗議の辞職となりました。風刺画には、ベゾス氏のほか、メタのマーク・ザッカーバーグCEO、オープンAIのサム・アルトマンCEOがひざまずき、トランプ氏をイメージした像に現金の袋を差し出すシーンが描かれています。その隣には米紙ロサンゼルス・タイムズのオーナー氏や、ミッキーマウスがひれ伏す姿もありました。テルナエス氏は「トランプ氏に取り入ろうと全力を尽くすIT、メディア企業トップの富豪たちに対する批判」と説明。ワシントン・ポストによる掲載拒否を「報道の自由を危険にさらす」と批判しました。

 ワシントン・ポストと言えば、世界のジャーナリズムを牽引してきた有力紙でした。そして、アメリカと言えば、言論の自由を牽引してきた国でした。これらの大切なものが、歪み、崩れ去ろうとしているのでしょうか。そうしたダメージは、世界の人々にも、じわりと及んでくることになります。(2025年5月)

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