6月下旬。国立大学法人宇都宮大学が運営する「未来塾」で講義する機会をいただきました。栃木の未来を切り開く人材育成塾「未来塾」。会社員、公務員、自営業などなど多彩な塾生のみなさんに、次のようにお願いしました。「いま最も変革、創生したい社会的課題を1つ選び、常識、ルールなどを飛び越えて、自考し、大バカになって、その大胆な解決策を出してみて下さい」。
そうしたら、出るわ出るわ、おもしろいアイデアが。最も感激したのは「履歴書の廃止」。これ、深いと思いませんか。過去の学歴、職歴、実績よりも、未来への可能性や潜在力を重視しようとする発想です。このアイデアを出してくれたのはSさん。私はその場で思わず絶賛しました。そのSさんから翌日メールをいただきました。
「『大バカになって社会を変える』というお言葉が、 私の心に深く響き、大きな決意を固めることができました。講義後、履歴書廃止について深く考察した結果、 これを本格的な社会変革プロジェクトとして推進することを決意いたしました」。なんと、翌日、「履歴書の廃止」を実行に移す方針を決めたとのこと。協力してくれる企業を探し、実態調査もするといいます。なんという行動力でしょう。
よく聞けば、Sさんは起業家。ご自身の経験から、夫の海外赴任で妻のキャリアが一時中断されることで生じる悩みや課題を解決したいと取り組んでいます。また、人事コンサルタントの経験もあり、1万人以上の人と面談をしてきました。そんなSさんが、大バカになって、踏み切った大胆なアイデアが「履歴書の廃止」でした。Sさんは、履歴書よりも、実際の面談の方がずっと大事だと言います。
「人材採用に失敗した時、履歴書って言い分けになるんですよね。こんな立派な履歴書なんだから、仕方なく採用してしまったんだと」。ある組織の幹部がこう話してくれました。履歴書に過度に依存するリスクを指摘しているのだと思います。過去のことが書いてある履歴書に過度に依存するのは、もしかしたら、採用する側の怠慢かもしれません。
「履歴書の廃止」は、採用する側が、もはや受け身でいる余地をなくすことになるのでしょう。採用する会社や役所などに、本当の力と覚悟が問われることになるのだろうと思います。「履歴書の廃止」が広がり、そんな組織が増えたら、日本社会は、格段に強くなれるかもしれません。(2025年6月)